2017年11月30日木曜日

小岩井農場のトロ馬車

モータリゼーション前の日本では、馬は暮らしの一部であった。馬は人にとってなくてはならないものであったし、あって当たり前のものであった。
このあたりのことは今となっては愛蔵の復刻版岩波写真文庫 馬 を読み、ため息をつきながら思いを馳せるしかないのだが、日本のモータリゼーションは1950年代なのでわずか60年前であるのがなによりも驚きだ。
私が高校生の頃は、いつか石油がなくなれば馬と暮らす時代が再来すると思っていたが、内燃機関の自動車が時代遅れになりつつある現状では人間社会に後戻りはないようにも思われる。

時刻表にない鉄道データベースさんによると、このモータリゼーション期に姿を消した馬車鉄道を復元したものが現在の日本には2か所だけあるという。北海道開拓の村と小岩井農場だ。


盛岡ICから秋田方面へ車で15分。雫石町小岩井農場まきば園のコスモス畑の隣にお目当ての馬車鉄道はある。

1904年(明治37年)から1958年(昭和33年)まで家畜の飼料やミルク缶を小岩井農場内各所(広い!)や小岩井駅まで運搬するのに馬車鉄道が使われていた。それを復元したものが現在トロ馬車の愛称(トロッコ馬車の略?トロトロ進むから?)で親しまれている。

大人500円、子供400円
1周は5分くらいか?きれいなコスモス畑と羊の放牧が見れるかと思ったがコスモスは1分咲き、羊は遠くにいた。
乗り場、人が集まると発車する

馬のぱかぱかと鉄道のとろとろの融合!

アブ除けの服を着ていた

枕木の間に馬の蹄の跡

今までに経験したことのない不思議な乗り心地!
音、揺れ、景色、臭い、すべて初体験でドキドキする。


まきば園は公園のようなところなので、小岩井農場に来たのに牛を見ずに帰られる方も多い。牛はまきば園にはおらず、道路を挟んで向かいの上丸牛舎にいる。他の場所にもいるが一般客が見学できるのは上丸牛舎だけ。
昭和9年(1934年)に建てられた一号牛舎は今も搾乳牛が飼われているが、さすがに手搾りではない。タイストール形式でパイプラインミルカーで搾られている。搾乳はパフォーマンスではなく、搾られた牛乳は商品となる。分娩舎や哺乳・育成舎も文化財。消毒や使い勝手等大変な思いをされていると思う。建物自体が貴重なものなのはもちろんだが、それだけでなく、その建物で酪農が営まれているということに価値があるように思った。

小岩井農場は観光施設であって観光施設でない不思議な場所。
現在と過去が融合するあたりに岩手の懐の深さを感じる。

ちなみに、牛舎内は覗く程度しか見られないが牛の体重測定や削蹄をしていた秤量剪蹄室は中に入ることができる。壁に殴り書きされた削蹄師の覚え書きのようなものや昔の秤が見られて面白い。


2017年11月24日金曜日

秋から冬へ 雲海とタイヤ交換

秋の朝靄は遠野の名物だ。
濃いときには視界30m程の濃霧になるのだが、そんなとき今日は天気が悪いと思うのは間違い。
空に雲がなく放射冷却の強い日に霧が濃くなるようなので、逆に天気がいい証拠である。

それを上から見るのが通の遠野の楽しみ方だ。

10/26 7時 高清水展望台

蒸気だか精気だかモノノケだかが遠野盆地に溜まって雲海になっている様は神秘的だ。海というよりも山に囲まれた湖のようでもある。しかし、これを湖と言ってしまうとまずいことが起こる。
バチが当たりそうなのでこれ以上は追及しないが・・・うんうん。

高清水展望台までの道は細く険しく、崩落や鹿の飛び出しは日常茶飯事、熊の目撃情報もあるところなので行くのにかなりの覚悟が必要であるが、ツワモノは日の出前からシャッターチャンスを狙っているようだ。11月から5月の連休くらいまでは積雪で頂上に行けないこともある。

それでも、カッパ渕でカッパに会う確率よりも秋に遠野に泊まって雲海になる確率の方が高いので、観光客にもぜひチャレンジしてほしい。

雲海がないと下界はこうなっている。
2013/5/12
だいたい同じ位置で撮ったPeugeot 206s16

しかし秋とは言うものの、展望台付近の気温はがっつり氷点下。
たまらず11/10に冬タイヤに交換した。
本当は10/30にオイル交換したばかりだったのでもう少し新しいオイルを夏タイヤで楽しみたかったが換えて正解だった。11/16には北東北と山形の各地で初雪となる。


前にも書いたが、ミト1.4Tスポーツのブレンボキャリパーはデカい。デカすぎる。
16インチだとキャリパーとホイールの内径&スポークとの間の余裕は2mm程しかない。少し不安だ。


まあ、これはこれでかっこいいかもしれない。

そして、今はもう完全に冬である。こうしてみると1年の半分は冬であることに気づいてしまい暗い気持ちになる。

11/21積雪 峠はスキー場みたいになっていた

YOKOHAMA ice guard 5+は今のところ絶好調。3度の鹿の飛び出しにあったが、すべて運転手のコントロール下で鹿の直前で止まった。キャリパーとのクリアランスのなさも積雪時でも問題ないようだ。

mito 1.4ターボのタイヤの空気圧は取扱説明書によると、
()内は最大積載時
195/55R16 87V    2.3/2.1    (2.5/2.3)
205/45R17 88W XL  2.4/2.2  (2.8/2.5)
215/45R17 87W       2.3/2.1      (2.6/2.3)
215/45R18 89W XL  2.4/2.2      (2.7/2.4)

うちのmitoは
夏215/45R17  91W XL
冬195/55R16  87Q M+S
なので
ブリジストンの推奨空気圧検索システムを使うと
国産車のみ対応とのことだが・・・
夏 2.4/2.3

取説にウインタータイヤは0.2bar高くしろと書いてあるので
冬 2.5/2.3

で、許容速度は
夏 270 km/h
冬 160 km/h


2017年11月21日火曜日

ラップ療法とナイロン糸ドレーンに感動した

画期的なアイデアと思っていたものが一過性のブームで終わってしまったり、慣習で疑いもせずやっていたことがある時突然終焉を迎えたりする。
ダイエットやファッションの話ではない。創傷治療の話だ。



昭和生まれの人間ならばヨーチンやオキシドールで沁みるのを我慢しながら傷を消毒してかさぶたを作っていた時代から、沁みない・色がつかないマキロン(第一三共の商品名)の登場まで記憶に新しいことと思う。
平成生まれもマキロンにはお世話になったと思うが、今や消毒液は使わずに流水洗浄後キズパワーパッド(バンドエイドの商品名)を張るのが常識となりつつある。

「キズの処置」は単純なようで奥が深い。
というのも、時々刻々とダイナミックに変化する自己修復に我々はついていけていない。そうすると「修復」を助けようとしてやっているつもりの「処置」が正常な組織を「傷害」し、傷の直りを「邪魔」してしまう。傷口の消毒がそれである。
逆に細菌の増殖を助長してしまう湿潤状態にしておくのが自殺行為かというと、そんなことはない。このほうが痛くなく、かつ早く治る。これが新しい(といっても実は昔からある)創傷治療法の湿潤療法である。キズパワーパッドも湿潤療法のひとつだ。

詳しいことは夏井睦先生の「新しい創傷治療」の「創傷治癒の基礎知識」と「湿潤療法とは」、「治療法・治療例」を参照されたし。

動物でも同じ。
牛では、一次癒合に適すると考えられる”受傷後8時間以内”で”汚染されていない”外傷に出会うことはほとんどなく、傷を見たら”8時間以上経過した感染創で内部汚染がある”としてほぼ間違いない。馬でもだいたいがそうだ。
そんな状態でも創周囲を剃毛し、水道水(場合によっては井戸水や川の水)で良く洗浄した後ペットシートで包めば9割方治ってしまう。

これが産業動物業界でも常識化しつつある開放性湿潤療法(open wet-dressing therapy・ラップ療法)である。
乾燥療法しかやったことのない人は鳥谷部俊一先生の「ここが変だよ!床ずれの常識」や、動物病院エル・ファーロの「創傷治療について」を読んでやってみてほしい。感動する。

滲出液が多いときや面倒くさい時(!)はペットシートをそのまま傷に当て、伸縮性包帯で固定するだけで良い。ひと手間加える気力があるならば水切り用ポリ袋をペットシートと傷の間に挟むか、ペットシートの傷口に当たる部分にワセリンを塗っておけばそれだけでもう立派なラップ療法である。デブリドマンと生食洗浄もすれば完璧。数日ごとに数回巻きかえれば治ってしまう。

ただし、傷口が小さく、奥に膿瘍がある場合は、意図せずに閉鎖性湿潤療法になってしまい、深部感染が治らず、創もいつまでたっても閉鎖しない。
そんな時はドレナージが必要であり、ドレーンを留置することになるのだが、ドレーンも進化した。
ナイロン糸ドレーンである。これも夏井先生「新しい創傷治療」の「治療法・治療例」の「動物咬傷総論・咬傷のドレナージ」で学んだものだが、束にしたナイロン糸が滲出液を吸い上げるのには感動した。どのくらいかというと小学生の時お風呂の水をサイフォン式で抜いた時くらい感動した。ナイロン糸ドレーンの排出力を見てしまうと、もう今までの輸液チューブに穴をあけたものやガーゼを創に突っ込んだものはもはやドレーンとは呼べなくなってしまう。

8号か10号くらいのテグスを同じ長さに切ったものを上の写真のように傷の形に応じて何種類か作っておき使用している。写真左下のチューブに通したものが産業動物界で普及しつつあるように思うが、簡便さと使いやすさは写真右のただ結んだだけのものが一番なので個人的にはこれがおすすめ。小さいキズなら写真上の1本をコヨリ状にしたものが使える。
これまた是非やってみてほしい。

2017年11月14日火曜日

岩手のイタリア・フランス巡り(?)

岩手のイタリア・フランス車乗りにはたまらないスポットを紹介する。
今流行の聖地巡礼の一つに加えてくれ。

北上のケーキ屋さん  Boule De Neige
岩手でおなじみのお店。
お店のシトロエン2CVチャールストンがカッコいい

盛岡のパン屋さん PanoPano
店内はパンのディスプレイが良い。
隣の駐車場によくフィアット・チンクエチェントが停まってる
 
釜石の路上駐車(合法)
パリを彷彿とさせるかも。10時から20時は枠内は無料で駐車可
928の前に停まってるのは光岡ビュート?クライスラーPTクルーザー?

遠野のスーパーマーケット AQUTE(アクティー)
姉妹都市のイタリア・サレルノ市をイメージした由緒ある建物。
ラブホではない。

2017年11月11日土曜日

馬の寄生虫


最近痩せてきたという馬を見させてもらった。食欲はあるし、排便もまずまずで斜歯や齲歯もないようである。駆虫も定期的にしている。

が、念のためと思いうんこを採材した。馬の寄生虫卵は牛の原虫オーシスト検査と同じショ糖遠心浮遊法で検出することができる。

で、出てきたのが上の写真の虫卵。丸くて茶色い回虫卵と、楕円でいかにも細胞が入ってますと感じさせる円虫卵である。
定期的に使っている駆虫薬ではぜんぜん虫が出てこないので、今回は名前にゴールドが付く値段も高い駆虫薬を使いましょうと言って翌日うんこを見ると中に寄生虫発見!
めでたしめでたし

これが円虫。血を吸って赤い場合もある。
回虫はうどんみたいなやつ。

と、ことはそう簡単ではない。
問題は3つある。ひとつの駆虫に3つの問題があるぞ
①耐性なのか?
②病因なのか?
③駆虫プログラムを変えるべきか?

①駆虫薬に対する円虫や回虫の耐性については確かに報告されている[1]が、だからと言ってすぐに「耐性ができた」と騒ぐのは科学的でない。まず、「ゴールド」が付こうと付かなかろうとこの馬に与えている薬の有効成分はノーベル賞でおなじみのイベルメクチンである。ゴールドにはプラジクァンテルという薬も入っているがこれは"条虫(サナダ虫の仲間)"と"吸虫(肝蛭の仲間で馬にはほぼいない)"に有効な薬で、"線虫"に分類される円虫・回虫・糸状虫には効果がない。そして、耐性のように見える場合でも、ちゃんと飲み込まず吐き出していたや、投与量の不足、薬の保存状態が悪かった、薬が効きにくい幼虫期だった、前回の投与の後に感染した等いろいろな可能性がある。

②うんこに出てきたからと言って円虫・回虫が病因とは限らない。少なくとも寄生虫に限って考えても、虫卵検出率の低い条虫や、蚊が媒介するためうんこに虫卵が出ない糸状虫(指状糸状虫の脳脊髄炎、犬糸状虫の心臓寄生)、昆虫であるウマバエ幼虫等の可能性がある。そもそも円虫に関しては虫卵検査では病原性の高い大円虫(普通円虫・無歯円虫)なのか、腸管の中だけで生活する小型腸円虫なのか判別できない。現役競走馬での報告によれば、91.9%が円虫卵陽性であったが、剖検された馬の大円虫の寄生率は31.8%であった[2]とのことなので、円虫卵陽性でもその多くは病原性の低い小型腸円虫感染であると考えられる。また、イベルメクチンは血管中の大円虫の幼虫には効果が高く、腸の結節中の小型腸円虫には無効である[3]ため駆虫するほどその傾向が出るだろう。回虫に関しては大量寄生時の仔馬の腸閉塞が主な被害で、成馬ではそれほど問題にされていない。

③寄生虫の多かった昔は盲目的なプログラム駆虫が効果を上げていたが、現在はどの牧場にも推奨できるプログラムというものはない。牧場によって汚染率も耐性率も違うからだ。一応、最低限の駆虫プログラムがJRAの冊子[4]に載っているが、今後は虫卵の全頭検査や死亡馬の剖検結果をもとに地域ごと、牧場ごと、馬ごとに駆虫計画を立てることになるだろう。まだ経験が浅いので何とも言えないが、自分の周りでは虫卵・剖検ともに条虫は見たことがないけれども、剖検で大円虫やウマバエ幼虫の寄生は見ている。また、確定診断されたことがあるかわからないが、昔から腰フラや斜頸が散見され糸状虫によるものだと言われているようだ。
以上を踏まえると、回虫対策で仔馬には今までは使っていないフルベンダゾールを(ピランテルは腸閉塞を起こしやすい?)、駆虫が足りていない農家には糞便検査を奨めて虫卵が検出された馬に駆虫を、糸状虫対策に蚊の増える時期にはこまめに(潜伏期は16~66日で脳脊髄に入ってしまうとイベルメクチンが届かない可能性があるので逆算すると・・・)、耐性対策に薬剤をローテーションさせる、というのを改善策として考えている。

いずれにしても、虫卵検査を普及させつつ、虫卵検査の結果に踊らされず馬の年齢や地域の傾向から問題の本質を解決できる駆虫計画を立てるというバランス感覚の必要な仕事になる。頑張って対策を立てても、何もしていないところよりも被害が出てむなしい気持ちになることもある。

参考文献
[1] REINEMEYER, Craig R.; 前尚見. 文献紹介 薬剤耐性馬回虫の診断およびコントロール. 馬の科学= Equine science, 2013, 50.1: 65-69.
[2] 戸口昌俊; 茅根士郎. 現役競走馬の糞便内寄生虫卵検査成績.日本獣医師会雑誌, 2005, 58.4: 247-249.
[3] Nielsen MK, Reinemeyer CR, Sellon DC : Equine infectious diseases, Nematodes, Sellon DC, Long M, et al eds, 2nd ed, 475-489, Elsevier Health Sciences (2013)