画期的なアイデアと思っていたものが一過性のブームで終わってしまったり、慣習で疑いもせずやっていたことがある時突然終焉を迎えたりする。
ダイエットやファッションの話ではない。創傷治療の話だ。
昭和生まれの人間ならばヨーチンやオキシドールで沁みるのを我慢しながら傷を消毒してかさぶたを作っていた時代から、沁みない・色がつかないマキロン(第一三共の商品名)の登場まで記憶に新しいことと思う。
平成生まれもマキロンにはお世話になったと思うが、今や消毒液は使わずに流水洗浄後キズパワーパッド(バンドエイドの商品名)を張るのが常識となりつつある。
「キズの処置」は単純なようで奥が深い。
というのも、時々刻々とダイナミックに変化する自己修復に我々はついていけていない。そうすると「修復」を助けようとしてやっているつもりの「処置」が正常な組織を「傷害」し、傷の直りを「邪魔」してしまう。傷口の消毒がそれである。
逆に細菌の増殖を助長してしまう湿潤状態にしておくのが自殺行為かというと、そんなことはない。このほうが痛くなく、かつ早く治る。これが新しい(といっても実は昔からある)創傷治療法の湿潤療法である。キズパワーパッドも湿潤療法のひとつだ。
動物でも同じ。
牛では、一次癒合に適すると考えられる”受傷後8時間以内”で”汚染されていない”外傷に出会うことはほとんどなく、傷を見たら”8時間以上経過した感染創で内部汚染がある”としてほぼ間違いない。馬でもだいたいがそうだ。
そんな状態でも創周囲を剃毛し、水道水(場合によっては井戸水や川の水)で良く洗浄した後ペットシートで包めば9割方治ってしまう。
これが産業動物業界でも常識化しつつある開放性湿潤療法(open wet-dressing therapy・ラップ療法)である。
乾燥療法しかやったことのない人は鳥谷部俊一先生の「ここが変だよ!床ずれの常識」や、動物病院エル・ファーロの「創傷治療について」を読んでやってみてほしい。感動する。
滲出液が多いときや面倒くさい時(!)はペットシートをそのまま傷に当て、伸縮性包帯で固定するだけで良い。ひと手間加える気力があるならば水切り用ポリ袋をペットシートと傷の間に挟むか、ペットシートの傷口に当たる部分にワセリンを塗っておけばそれだけでもう立派なラップ療法である。デブリドマンと生食洗浄もすれば完璧。数日ごとに数回巻きかえれば治ってしまう。
ただし、傷口が小さく、奥に膿瘍がある場合は、意図せずに閉鎖性湿潤療法になってしまい、深部感染が治らず、創もいつまでたっても閉鎖しない。
そんな時はドレナージが必要であり、ドレーンを留置することになるのだが、ドレーンも進化した。
ナイロン糸ドレーンである。これも夏井先生「新しい創傷治療」の「治療法・治療例」の「動物咬傷総論・咬傷のドレナージ」で学んだものだが、束にしたナイロン糸が滲出液を吸い上げるのには感動した。どのくらいかというと小学生の時お風呂の水をサイフォン式で抜いた時くらい感動した。ナイロン糸ドレーンの排出力を見てしまうと、もう今までの輸液チューブに穴をあけたものやガーゼを創に突っ込んだものはもはやドレーンとは呼べなくなってしまう。
8号か10号くらいのテグスを同じ長さに切ったものを上の写真のように傷の形に応じて何種類か作っておき使用している。写真左下のチューブに通したものが産業動物界で普及しつつあるように思うが、簡便さと使いやすさは写真右のただ結んだだけのものが一番なので個人的にはこれがおすすめ。小さいキズなら写真上の1本をコヨリ状にしたものが使える。
これまた是非やってみてほしい。
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