自動運転よりもMT車を、自動車よりも馬を愛でるblog
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2018年7月15日日曜日

馬の精液注入(人工授精 artificial insemination)

これは直検

授精適期の診断精液の処理が出来たらいよいよ精液の注入を行う。
必要なものは精液と直検手袋、注射シリンジ、プラスチックチューブ(下の写真はカナマイジェットのものを流用)、それに無菌で精子に支障のない潤滑ゲル(KYゼリーなど)。

陰部を洗浄消毒しきれいに拭く。人工授精のメリットのひとつが「生殖器の感染症を移さない」なのでここをしっかりやらなければ意味がない。合羽や手に付着した病原体を次に授精する雌馬に移すくらいなら、1回ずつ銭湯に入って着替えてくるほうがまだ有意義だ。鼻肺炎・パラチフスは本当に恐ろしい。

シリンジに吸った精液は日光に当たるとダメージを受けるのでできるだけ遮光して持つ。温度管理にも注意する。

カナマイジェット(廃盤)のチューブは硬さ太さがちょうど良い
AI用に誂えたかのような使い心地だ
受胎増進器やシース管を使うこともできる

潤滑剤を塗り膣内に手を挿入する。奥で子宮外口に触ることができるので、指先の操作でチューブを子宮内に進める。牛と違って馬の子宮頚管のひだは縦方向についているので弁のようなひだの牛の人工授精に比べると驚くほど簡単。この時、硬すぎず柔らかすぎずのチューブであれば子宮頚管よりも奥の排卵側の子宮に入れることができる。
このような盲目的方法の他に、膣鏡と子宮頚部用鉗子、シース管を使って子宮外口を目視下で注入する方法や内視鏡を使い卵管口の乳口嘴(ピンクのポッチがある)を目視しながら深部注入する方法もある。
しかし「盲目的」という名前のイメージとは裏腹にこの膣内に手を挿入する方法は実にたくさんの情報を手を介して感じることができ、最も効率的な方法だと思う。

子宮内視鏡
矢印:卵管口の乳口嘴

ただし、時間や精液に制約がある場合、人工授精成功のカギは手技よりも排卵タイミングにいかに合わせられるかなのでこちらの診断の研鑽が必要である。
卵胞の大きさが30mmくらいから50mmくらいで排卵するといわれるが、卵胞の大きさだけから排卵時期を推定することはできない。
子宮の浮腫像や卵胞の形の変化にも注意し、総合的に判断する必要がある。

車軸もしくはオレンジスライスに見える子宮の浮腫

排卵前の卵胞はまんまるからだんだん角ばってくる
(排卵窩に向かって卵胞が円錐状に伸びる)

参考
DVD馬の人生授精技術 日本馬事協会2012

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