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2021年8月4日水曜日

輸入凍結精液産駒たち 2021


Au Japon, 4 poulains sont nés par IAC avec des paillettes importé de France.

2020年に続き、2021年もフランス産の凍結精液による産駒が岩手で生まれました。


Contendro GFE x Elma queen (Friedenslaut WESTF)
mâle


Contendro GFE x Lorenzia (Bridgestone KWPN)
mâle

コンテンドロ I は馬場、総合、障害なんでもOK!
東京オリンピックはメダルこそありませんが子、孫,ひ孫が多数出場しています。
馬場:Kontestro DB (フィンランド)
総合:Chipmunk(独)第8位、Cato 60(スウェーデン)
障害:Dez'Ooktoff(コロンビア)、Finn Lente(アルゼンチン)


Spirit of Semilly x Vali-slaut (Valissimo TRAK)
femelle


Rock’n Roll Semilly x Vali-sakura (Valissimo TRAK)
femelle
一番上の写真もこの馬

スピリットオブセミリとロックンロールセミリは障害飛越の大種牡馬ディアマンドゥセミリDiamant de Semillyの後継種牡馬です。
Diamant de Semillyの子、孫には
総合:Toledo de Kerser(英)第2位、Diachello(NZ)、Viamant du Matz(独)、Fascination(デンマーク)
障害:DONATELLO 141(イスラエル)予選減点0、Venard de Creisy(スイス)優勝候補も残念予選落ち、Emir(アルゼンチン)、
がいます。

また、障害1走目減点0のClooney 51(スイス)の父Cornet Obolensky やJefferson(英)の母父Knnnan の凍結精液もGFEが取り扱っておりお取り寄せ可能かもしれません。
※日本は現在フランス産の凍結精液しか輸入できない。

おっとClooney 51は母父が遠野の大種牡馬フリーデンスラートの父でもあるFerragamoなのでフリーデンの甥になるんですね。がんばれ。

2021年7月30日金曜日

Tokyo2020 オリンピック総合馬術

 総合馬術は7/30,7/31に調教審査(馬場)からスタート。

そして8/1の朝7:45からが海の森の特設コースが注目の耐久審査(クロスカントリー)、

8/2が余力審査の二走(障害)です。メダルのかかる決勝は午後8:45から。

凍結精液によって日本で生まれたコンテンドロの子(遠野)


強いのはイギリス

これにプラスドイツフランスアイルランドといったヨーロッパ勢 vs クロスカントリーに強いオセアニアのニュージーランドオーストラリア vs カウボーイの国アメリカ vs 2018世界選手権団体4位の日本

という構図が見どころ。

予選の馬場・野外・障害を終えると上位25名が決勝の障害2回目に進むのですが、疲れてフラフラになりながらもライダーとの信頼関係を頼りに障害をクリアしていく姿には涙涙で、完走した全人馬に感動するでしょう。

他の馬術競技と違いクロスカントリーでの反抗3回や落馬、転倒による失権が珍しくないことや、途中の獣医師による馬体審査(ホースインスペクション)での失権、疲れで最終日の障害が飛べなくなっての失権などもあり、特に団体戦は3人馬が完走しスコアをそろえるだけでも難しいのが総合馬術です。

運や天を味方につければ下克上も十分あり得るだけに、日本も最もメダルに近いのが総合馬術だろうとここ数年総合馬術の強化に特別力を入れています。

頑張ってほしいですね。

総合馬術に出る馬は当然3種目ともこなせるオールラウンダーでなければいけません。この点に関してはフランスの品種「セルフランセ」が強いようです。

フランス代表がセルフランセで揃えてきているだけでなく、馬産大国ドイツもセルフランセ(フランス産&ドイツ産)での出場になります。

特にセルフランセのライセンスももっているGFE(フランス育種協会?)の種馬CONTENDRO GFEの子がバランス抜群。

CONTENDROの子チップムンク Chipmunk(ドイツ)やキャト60 CATO60(スウェーデン※セルフランセではない)は優勝候補です。馬場にもコンテストロDB KontestroDB(フィンランド※同)が、障害飛越にもムンバイ Mumbai(ドイツ※同)が出場予定でオールランダーぶりがうかがえます。

また、コンテンドロと同じくフランスからの凍結精液の輸入が(たぶん)行われているディアマン・ドゥ・セミリDiamant de Semillyの子ヴィアマン・デュ・マッツViamant Du Matz(ドイツ)とトレドデカーサーToledo de Kerser(イギリス)も優勝候補です。

Diamant de Semillyは後継種牡馬や近親種牡馬も多数おり、今後の国産のHARAS DE SEMILLYのスタリオン産駒に期待です。


2021年7月24日土曜日

東京オリンピック開幕 馬場馬術は7/24~7/28

 取り急ぎ馬場馬術競技の見どころを!

まず間違いないのがドイツ強し。

予選の最後(7/25 21:51)に登場するイザベル・ベルトIsabell Werthは個人団体合わせて10個のオリンピックメダルを持っており、今大会でも2018年世界選手権で優勝しているベラローズⅡ(ウエストファーレン種)とのコンビで優勝最有力候補です。

ドイツはイェシカ・フォンブレドウ=ベルンドルJessica Von Bredow-Werndl &TSF ダレラ Bb(トラケナー種)が世界ランキング2位、ドロテー・シュナイダーDorothee SCHNEIDER &ショータイムFRH(ハノーファー種)も世界ランキング4位と上位独占(1位と3位がイザベルベルト)という圧倒的強さ。全員が優勝候補です。

馬もばっちりドイツ産で揃えていてたまりませんね。

これに対抗するのがオリンピック馬場個人2連覇中のイギリスのシャーロット・ドュジャルダンCharlotte Dujardinですが、2連覇を達成し馬場馬術グランプリフリースタイルの世界最高得点(94点台)をだしたことのあるヴァレグロは既に引退しており、今大会は10歳と若いジオ(KWPNオランダ温血種)とのコンビで爆発力に期待。

またヴァレグロの前の世界最高得点をマークしていたオランダのエドワルト・ハルEdward Galは伝説の馬場馬トーティラスの子で9歳のトータルUS(ハノーファー種)との出場ということで楽しみです。

他にもデンマークのカタリーヌ・ドフールCathrine Dufour&ボヘミアン(ウエストファーレン種)やアメリカのステファン・ピーターズSteffen Peters&サッペンカスパー(KWPN)もメダルを狙えます。

団体もこれまでに出てきた国がメダル候補と思います。

他には、選手の年齢が40代、50代がざらにいる馬場馬術の中で20代と30代で団体チームを組んでいるフランスは応援したくなりますね。


さらに日本も実はメダルを狙っています。というのもJRAが本気です。

さすが天下のJRA様。2017年2018年とそれぞれ8億円もの強化費を投じ、オリンピック用の馬の購入費などに充てています。日本サッカー協会のチーム活動費が男女合わせて年間3億円と言いますからすごい額です。

というのも、高級品の代名詞のようなサラブレッド競走馬ですが、それよりもさらに希少かつ貴重なのが優秀な馬術競技馬です。優秀な馬術競技馬の育成には10年もの時間が必要なうえに、相棒である愛馬をそう簡単に売ってはくれないものです。また、優秀な馬は優秀な教官にもなり、選手のレベルアップにもつながります。

値段は非公表ということですが、JRAは金メダリストのシャーロット・ドュジャルダンが調教し、国際大会ロイヤルウィンザーホースショーでグランプリ優勝経験もあるバローロ号を購入してJRA職員とともに海外を拠点として武者修行を重ねさせました。

これだけでもJRAのヤバさがわかりますが、今大会ではバローロ号は予備馬です。

出場するのはイギリスやデンマークで調教・競技されてきたルードウィッヒ・デル・ソンネンコニッヒ2(オルデンブルグ種)とフィンランド代表として本大会にも出場するヘンリー・ルオステの調教馬ウラカン10(デンマーク温血種)がJRA馬事公苑所属の佐渡 一毅北原 広之とともに。やはり本大会にも出場するオーストラリアのシモーン・ピアースSimone Pearceとともにグランプリ競技に出ていたスコラリ4(ハノーファー種)がアイリッシュアラン乗馬学校の林伸伍とともに。

佐渡選手が4番目の演技(7/24 17:27)で先陣を切り、2日目は国際大会優勝経験もある北原選手、名門明治大学出身で全日本選手権を3度制している林選手が登場。7/27の団体決勝、7/28の個人決勝フリースタイルとメダルを狙います。

馬場馬術競技は始まってしまえばそれほど波乱のおこらない競技といえますが、何年もかけて育てた馬を大一番の舞台に無事に送り出すというだけでも大変なことです。ましてやヨーロッパからの飛行機での大移動、新型コロナウイルス対策での不便さ、東京の夏の暑さが重なっては何が起こるかわかりません。

全人馬が健康に最高のパフォーマンスが出せるように祈りますが、日本選手が地元開催の利を活かして上位に食い込んでくることも期待しています(といっても馬はヨーロッパからの輸送ですが)。

ちなみにフィンランド代表のヘンリー・ルオステHenri Ruoste選手と組むコンテストロDB(ベルギー温血種)は凍結精液で日本でも子供が生まれているコンテンドロgfeの子です。障害や総合だけでなく馬場もいけるんですね。

さらにショータイムFRHやスコラリ4、フランス代表モーガン・バルバンソンMorgan Barbançon選手と組むサードナーホールⅡOLDはサンドロヒットという大種牡馬の子です。同じくサンドロヒットを父に持つソリマンドゥハスの凍結精液も日本で供用されていますので、フランス産の凍結精液の輸入開始に伴って日本でもオリンピッククラスの血統の馬が手に入るようになりました。

夢は国産馬でのオリンピック出場ですね。


参考 五輪強化費、サッカーの倍以上の「マイナー競技」とは?:朝日新聞



2020年6月14日日曜日

フランスからの輸入凍結精液による子馬たち   

Au Japon,des juments sont enceintes par IA profonde avec des paillettes importé de France.
2020年、各地から輸入凍結精液による出産&妊娠の声が上がっている

Les 3 poulains sont nés par le transfert d'embryon à Université d'agriculture et de médecine vétérinaire d'obihiro.
帯広畜産大学

Les 3 poulains sont nés à SFIAC.
SFIAC

À Iwate
岩手でも
Des embryons au 15ème jour après l'insémination
授精後2週間の胚を確認

Sperme congelé : CONTENDRO 1*GFE
精液 : コンテンドロ(ホルスタイン)

Sperme congelé : SPIRIT OF SEMILLY
精液 : スピリット・オブ・セミリ(セルフランセ)

et la pouliche
子馬も
Sperme congelé : Darkshadow des dauges
精液 : ダークシャドウ・デ・ドージュ(コネマラ)

2020年4月2日木曜日

馬人工授精のワールドスタンダード


馬の子宮深部注入

ついにワールドスタンダードな馬の人工授精(AI)および胚移植(ET)のやり方が日本語の活字で発表された。
「障がい者や初心者に安全な馬の新しい生産法」
~凍結精液による人工授精・受精卵移植法の手引き~

前にも書いたが、馬のAIやETの礎を築いたのは日本人だった。しかしその後すぐに日本はモータリゼーションに突入。使役馬の需要が減り、馬の生産が競走用のサラブレッドに偏っていった。自然交配しか認められない品種であるサラブレッドではそれらの技術は不要となり、研究も発展もしなくなった。その一方、海外では安全で便利な方法としてAIや凍結精液、ETが研究され発展・普及していった。
そして現在、日本はごく一部の乗用馬や重輓馬でAIは続けられているが、ガラパゴス化の感は否めない。
ガラパゴスもそれはそれで大変貴重だが、もはやガラパゴスAIに使う器具はとっくの昔に廃盤となっていて手に入らない。馬のAIのために道具を自作しているという話も少なからず聞く。
さすがにそろそろフランスのIMV社やドイツのminitube社から出ている市販品を使ったワールドスタンダードなAIにシフトしていく頃合いだろう。個人輸入(ebayでも?)だけでなく凍結精液の輸入代理店に頼めば購入できるのではないかと思う。

IMV社製の馬用深部注入カテーテル(ゾンデ)

マンドレル(心棒)で精液ストローを挿入
さらに押して精液注入
先に嵌ったストローごとマンドレルを引き出す


また、液状精液や、凍結精液を融解した後にストローから希釈液に混ぜて注入する際につかうのは下の器具。深部注入カテーテルよりは短いが、牛用シース管よりも長く柔らかい。先は先端開口型。管の中の容量は5ml程度なので、チューブ内の液を押し出すときはその分の空気で押し出す。希釈精液5mlの注入ならチューブ内を精液で満たした状態でシリンジとつなげるゴム部分を折り曲げればシリンジのゴムに精液を触れさせることなく注入できる。

IMV社製の馬用人工授精カテーテル(ゾンデ)

 ガラパゴスだけに世界遺産級の日本独自の人工授精器具
その名も受胎増進器

2020年2月8日土曜日

繁殖に使えるツボ

牛においては改めて市民権を得つつあるお灸。
というのも、ドップラー機能のついた超音波診断装置の普及に伴い、東洋(獣)医学と西洋(獣)医学の間の壁が崩れつつある。

ドップラー機能とは超音波を出すプローブを当てるだけで体の中の液体が流れる量や方向がわかるというもの。家畜においては始めは心臓の奇形くらいしか使い道がないかと思っていたが、ここのところ抹消の血流量の測定で注目されている。
要するに、いままで何となく感覚的に効きそうぐらいな根拠しかなかった「お灸」が、西洋医学的にも卵巣や子宮動脈の血流量の増加という形で効果が立証されるようになってきた。(※注 西洋医学とは違った形になるが、東洋医学にも理論や根拠はある)

中医学・中獣医学は実は欧米でもかなり認められていて、Traditional Chinese Medicine(TCM)という分野があり、大学で鍼灸や漢方の授業も行われている。批判ももちろんあるが、全くの出鱈目だというよりは玉石混交だから気をつけろというニュアンスが多いように思う。

お灸を据える「ツボ」は中医学でいうところの経穴(気血栄衛の通り道)なわけだが、これも筋膜の歪みや神経の集中する地点として説明できるとするトリガーポイント理論などで西洋医学と融合しつつあるとかないとか。
詳しくは以下を参照

参考文献
三浦亮太朗, et al."お灸がウシの黄体血流および血中プロジェステロン濃度に与える影響."   日本受精卵移植関連合同研究会 京都大会 2017年9月20日



ま、効く効かないは東洋医学に限らず西洋医学でも車のチューンナップでもなんでも自己責任で判断を。


さて、前置きが長くなったが、今回言いたいことは簡潔だ。
お灸をしたら不妊症で繁殖をあきらめられそうになっていた一頭の馬が妊娠した。

お灸をした「から」孕んだのかどうかは置いておいて、事実として興味深い。


使ったツボは百会、陽関、腰膁、雁翅。この年最初の種付けの不受胎が分かった時から排卵するまでに3回施灸した。

以下 中国獣医針灸療法 馬針編(岩手文永堂 1976) より

また、手技図解 家畜外科診療(養賢堂 1963)には
雁翅:左右の腸骨外角を結ぶ線で背正中線より1/3側方の部にある。不妊症への通電療法。
陽関:第4・5腰椎棘突起間にある。すなわち百会穴前方約9.0cmにあたる。腰股部リウマチ。
とある

黄体だけでなく卵胞周囲にも血流があり、排卵や妊娠に少なからず影響を及ぼしていると思われる。詳しくは"卵胞オタク"と言われているOJ Ginther先生の論文を読んで勉強中。
ドップラーのついてるポータブルエコーがもうちょっと安くなれば自分でも調べるんだけどなあ。

参考文献
宮本明夫, and 大谷昌之. "カラードップラー超音波画像診断装置を用いたウシ卵胞の発育, 閉鎖過程の血流像の動態." (2003).

2019年3月17日日曜日

助産 3つのルーチンと3つのNG


・引っ張るだけが助産じゃない
胎子の肢にロープをかけて引っ張る。助産というとこのイメージかもしれない。しかし、本来「押し出される」はずの胎子を「引っ張りだす」ことは、胎子と母体にとても大きな負荷をかけている。牽引による助産は子牛・子馬の活力を低下させ、免疫の移行にも悪影響があることがわかっている[1,2]ので、むやみな牽引は避けたい。むしろ本当の助産とは、引っ張らなくてもいいようにすることだと言える。
難産の発生率は多めに見ても初産牛で15%、経産牛で5%、馬で10%と考えられる[3,4, 5]。それ以上に牽引している牧場や、お産の死亡事故が5%を超えている牧場は、助産の方法を見直すことを考えてほしい。



・3つのルーチン
そこで、助産の3つのルーチンとしてもらいたいのが①緊急時を見越した準備、②発信履歴での時間管理、③潤滑剤を胎子に塗りたくる、だ。
①助産は誰もが慌ててしまうもの。引っ張る余裕がある所に移動させたり、胎水を吐き出させるために逆さ吊りにしたりする準備は先にやっておかなければならない。
②袋が破けて胎子の尿がでてくる第一破水や足胞出現からの時間は、助産や往診依頼の判断に重要。携帯電話は発信することで時刻つきの履歴が残るので、記録に活用できる。
③第二破水後であれば、アルギン酸ナトリウムや石鹸などの潤滑剤を胎子に可能な限り塗りたくる。これは産道との摩擦を減らすだけでなく、手の物理的刺激による産道の拡張やとにかく触ることで胎子の姿勢の詳細がわかってくるという効果がある。

・3つのNG
逆にやってはいけないのは①一人での助産、②足だけでの逆子の判断、③一方向からのみの牽引、だ。
①一人での助産はアクシデントがあった場合に人・家畜ともに危険を回避できない。
②また、蹄の向きや関節の曲がり方での判断は熟練者でも間違えることがあるので、逆子の判断は必ず尻尾で行う。
③そして一番最後に、するリスクとしないリスクを天秤にかけて牽引の判断をするのだが、左右の足を交互に引っ張ったり、引っ張る方向を上下左右に変えたりすることが大切だ。

1. 杉本仁美, et al. 乳牛の分娩において牽引の程度が新生子牛の活力, 血液ガス, 血清 IgG 濃度に及ぼす影響. 産業動物臨床医学雑誌, 2011, 2.1: 14-19.
2. JRA育成牧場管理指針
3. 乳牛の難産 : 原因,予防,助産および失位整復法 石井
4. 蔵書4
5. 山内亮. 最新家畜臨床繁殖学最新家畜臨床繁殖学, 1998.

2019年1月18日金曜日

馬の排卵同期化と発情誘起

馬の繁殖シリーズ第1章は今回でひとまず完結
過去の投稿は
①馬の性周期におけるホルモン支配
②馬の交配適期・授精適期とその予測
③馬の採精と精液処理
④馬の精液注入(人工授精 artificial insemination)
⑤馬の凍結精液

2017年フランスからの馬凍結精液の輸入解禁、そして2018年日本で25年(?)ぶりとなる馬受精卵移植の成功、と日本の馬生産は今ターニングポイントに差し掛かっている。

日本は馬精液の凍結法の確立や、受精卵移植による馬の生産を世界で初めて成功させた。しかしその後、モータリゼーション到来に伴い農用馬が減少。自然交配しか認められていないサラブレッドの生産に偏っていった結果、馬の生殖補助医療技術は失われてしまった。

排卵同期化法も同様で、近年の日本での臨床報告は軽種馬のhCGによる排卵コントロール(宮越ら 2014)、重種馬におけるブセレリンの排卵効果(三木ら 2017)、重種馬のPGF2αによる性周期同期化(三宅ら 1976)、重種馬のE2,CIDR,PG,によるプログラム交配(安田ら  2008)程度しか見当たらない。

海外では1981年にLoyらが同期化法のベースを確立させて以降、凍結精液の定時人工授精法や移植レシピエントの排卵同期化処置として様々に発展し、普及している。

国内でも報告は見つけられなかったが、海外に倣ってプロジェステロンの経口薬(日本で動物用薬は市販されていない)を使った発情誘起・発情同期化がけっこう行われているようだ。しかし、どこまでの精度で排卵同期化できるのかはわからない。

そこで必要なのが2019年家畜診療掲載の家畜診療等技術・東北地区発表会抄録「CIDR,PGF2aおよびhCGを併用した馬の排卵同期化(庄野ら 2018)」のような臨床報告となる。

CIDR(シダー1900)を9 or 10日間膣内留置し、抜去時にPGF2a(プロナルゴン1ml)を筋注。その4日後にhCG(ゴナトロピン3000IU)を静注するという方法で、定時排卵率が77.8%という成績を得ている。
この場合の定時排卵率というのは、hCG投与時から96時間以内に黄体が確認された割合ということで、排卵48時間前から排卵24時間後とされる授精適期や、レシピエントの排卵日はドナーの排卵日の前日から2日後まで許容されるという受精卵移植の排卵同期化を意識したモノになっている。
やや精度が低い感は否めないが、さらにE2を併用するなどして今後改良されていけばと思う。
馬にCIDRを入れるときは青い紐を外した方が膣炎防止になりそう
紐がなくても膣鏡があれば抜ける

さらにこの方法は無発情馬や繁殖移行期にも使えそうだ。
海外も含めたこれまでの報告によると、鈍性発情や黄体遺残であればPGだけでも治療効果が期待できるし、CIDRもしくはCIDR+E2を使うことで卵巣静止でも発情誘起が期待できる。
この方法であれば牛で一般的に使用されている薬品しか使用しないので、馬獣医がいない地域の馬にも処置することができるし、さらに改良されればもう直検やエコー検査を行わずにプログラム交配ができるようになるかもしれない。

ちなみに牛の獣医からはよく「馬のPG(ジノプロスト)はなんで牛の5分の1の量でいいの?」とよく聞かれるが、実はこれ簡単な話ではない。
まずPGは普通、"全身循環するホルモン"とは異なり、子宮で産生されたものが卵巣静脈から卵巣動脈に直接移行する「対交流機構」によって卵巣に到達する。しかし、ウマとウサギは卵巣静脈と卵巣動脈が物理的に分離しておりこの機構が存在しない[1]。
その一方でウマはPG自体がPGの産生を増幅させるという自己分泌増幅機構を持つことが2016年に解明された[2]。
これによって子宮で産生されたPGが直接卵巣に届かなくても黄体退行が起こるし、注射量が少なくても黄体退行が起こる。PGを打つと馬が全身から発汗し疝痛のような様子を示すのもおそらくここからきていると思われる。


2019年1月5日土曜日

馬の凍結精液

競馬先進国となった日本だが、馬術については欧米に追い付いていない。
2018年のアジア大会・世界選手権パラにおける馬場・障害・総合での日本勢の活躍は、東京オリンピック・パラリンピックにむけて期待が膨らむものだった。しかし、まだまだ馬術が日本に浸透しているとは言えない。
何より競技馬の生産が足りない。

生産頭数も足りなければ生産技術も足りないのだが、今後変わっていくはずだ。
平成29年にフランスからの凍結精液の輸入が解禁された。牛の品種改良を見ればわかるように凍結精液による人工授精(と受精卵移植)が改良の効率化に与える影響は大きい。
現在は日本でごくごく一部(2か所?)でしか作られていない凍結精液だが、今後普及していくだろうと思う。
人工授精の精液注入方法については前回の投稿を参照。


馬精液のストロー凍結方法は日本家畜人工授精師協会の本によると

グルコース、ラクトース、ラフィノース、クエン酸Na、第2リン酸Na、酒石酸カリNaの水溶液に
卵黄を添加した液の上澄みにペニシリンGカリウムとストレプトマイシンを添加した希釈液(HF-20-A液)を精液に加えた後、1500rpmで遠沈させ上澄みを除去。
沈殿精子に再び希釈液を加え5℃に冷却したら、HF-20-A液にグリセリン10%を添加した液(HF-20-B液)等量を点滴などで徐々に添加しストロー(牛用)に封入する。
ストローは液体窒素液面上3~5cmの位置において凍結させる。

等々書かれているが、今後改良されていくと思うので詳細は割愛。

凍結精液ストローの融解法も同じ本に

「35~40℃の水にストローを投入して速やかに融解する。1授精当たり6~10ストロー分の精液を融解し、これに30℃に温めたHF-20-A液を加えて20ml前後にして授精に供する。」

と載っているが、おそらく今後は牛用のモ5号やYTガンもしくはIMVやminitubeで扱っているような深部注入カテーテルに融解したストローをそのまま入れる方式にかわっていくと思う。ちなみに融解後の希釈液は岩手県ではスーパーマーケットの牛乳コーナーに普通に売られている小岩井の無脂肪牛乳でも全然大丈夫。他県では手に入れにくいらしいが。

凍結精液の受胎率向上には、凍結手技や授精手技の向上に加え、そもそも個体差が大きいとされる精液の耐凍能による種雄馬の選別が必要と考えられ、そう簡単に普及させられる代物ではないのだが、馬関係者の一層の奮起によって競技馬生産を欧米並みに引き上げるチャンスを今掴むべきだろう。

参考文献
馬人工授精マニュアル 日本家畜人工授精師協会
Allen WR, Antczak DF : Reproduction and modern breeding technologies in the mare, The Genetics of the Horse, Bowling AT , Ruvinsky A,307-342, CABI, Cambridge(2000)

2018年7月15日日曜日

馬の精液注入(人工授精 artificial insemination)

これは直検

授精適期の診断精液の処理が出来たらいよいよ精液の注入を行う。
必要なものは精液と直検手袋、注射シリンジ、プラスチックチューブ(下の写真はカナマイジェットのものを流用)、それに無菌で精子に支障のない潤滑ゲル(KYゼリーなど)。

陰部を洗浄消毒しきれいに拭く。人工授精のメリットのひとつが「生殖器の感染症を移さない」なのでここをしっかりやらなければ意味がない。合羽や手に付着した病原体を次に授精する雌馬に移すくらいなら、1回ずつ銭湯に入って着替えてくるほうがまだ有意義だ。鼻肺炎・パラチフスは本当に恐ろしい。

シリンジに吸った精液は日光に当たるとダメージを受けるのでできるだけ遮光して持つ。温度管理にも注意する。

カナマイジェット(廃盤)のチューブは硬さ太さがちょうど良い
AI用に誂えたかのような使い心地だ
受胎増進器やシース管を使うこともできる

潤滑剤を塗り膣内に手を挿入する。奥で子宮外口に触ることができるので、指先の操作でチューブを子宮内に進める。牛と違って馬の子宮頚管のひだは縦方向についているので弁のようなひだの牛の人工授精に比べると驚くほど簡単。この時、硬すぎず柔らかすぎずのチューブであれば子宮頚管よりも奥の排卵側の子宮に入れることができる。
このような盲目的方法の他に、膣鏡と子宮頚部用鉗子、シース管を使って子宮外口を目視下で注入する方法や内視鏡を使い卵管口の乳口嘴(ピンクのポッチがある)を目視しながら深部注入する方法もある。
しかし「盲目的」という名前のイメージとは裏腹にこの膣内に手を挿入する方法は実にたくさんの情報を手を介して感じることができ、最も効率的な方法だと思う。

子宮内視鏡
矢印:卵管口の乳口嘴

ただし、時間や精液に制約がある場合、人工授精成功のカギは手技よりも排卵タイミングにいかに合わせられるかなのでこちらの診断の研鑽が必要である。
卵胞の大きさが30mmくらいから50mmくらいで排卵するといわれるが、卵胞の大きさだけから排卵時期を推定することはできない。
子宮の浮腫像や卵胞の形の変化にも注意し、総合的に判断する必要がある。

車軸もしくはオレンジスライスに見える子宮の浮腫

排卵前の卵胞はまんまるからだんだん角ばってくる
(排卵窩に向かって卵胞が円錐状に伸びる)

参考
DVD馬の人生授精技術 日本馬事協会2012

2018年7月9日月曜日

馬の採精と精液処理


繁殖シーズン前の復習に始めたこのシリーズだったが、気づけばほとんどもうシーズンは終わってしまった。来年のための予習としたい。

馬の採精は雌馬もしくは擬牝台に種雄馬が飛び乗ったところで、陰茎を人工膣に誘導することで行われる。

偽牝台や人工膣にはいろいろな種類があるが、偽牝台は馬の輪郭を模造する必要はなく、馬と人の安全が第一に作られたシンプルなものが多い。人工膣は筒形のゴムを太いアルミ製の外筒の中を通して両端を外筒の外側に折り返すことで、ゴムと外筒の間に温水を入れて膣内の温度と圧力を再現している。重要なのは中の水を41~43℃に調節することだ。

人工膣の外筒

中のゴム 

装着後

細いほうに精液が入る袋を付ける

採取した精液は室温(20℃ほど)でガーゼで濾してゲル状の膠様物を取り除く。
流動性・色・精子濃度・前進運動率でこれを評価する。活力測定には顕微鏡に熱テーブルを付けて37℃に設定する必要がある。


1回にとれる精液の量は5mlだったり150mlだったり個体差や日差でいろいろだが、これを希釈することで一回の射精で複数の繁殖牝馬に種付けできるようになる。
希釈液は日本では牛用のものを流用したり、市販の無脂肪牛乳をつかったりいろいろだが、いずれにせよ同じ温度にすることとpHを安定させること、精子に必要なエネルギーを保つ物質が含まれていることが大切のようだ。

一応希釈の際に使う式があるのだが、要するに総精子数に前進運動率をかけた有効精子数が設定する数になるように希釈するということ。
有効精子注入数は新鮮精液なら最低で3億、できれば6億ほど欲しいといわれている。凍結精液では有効精子が8億かつ、解凍後の前進運動精子が35%以上が最低でも必要といわれる。

理想的な希釈率は最終的な希釈により1mlあたりの有効精子(前進運動精子)が2500万と本にある。なのでこれを固定とすれば、例えば取れた精液が45ml、密度1.45億、前進運動60%であった場合には、総精子数(6.525)×前進運動(0.6)を最適密度(0.025)で割って156.6mlとなる。
有効精子注入数を1頭につき6億と設定すると、2500万/mlなので注入量は24ml。
よって6頭の牝馬に人工授精できる。

希釈率や有効精子注入数は変えることができる。深部注入などによって5000万ほどの有効精子数でも安定して妊娠させることができるlow-dose insemination法が欧米では研究されている。

精液の注入法については次回。

参考文献
馬の人工授精の理論と実践 E・クルーク、H・ジーメ
日本馬事協会出版 第5版?

2018年3月6日火曜日

馬の交配適期・授精適期とその予測

発情・排卵に関わるホルモンの波について前回書いた。
ではいつ交配もしくは人工授精をしたらいいだろうか。


授精(交配)適期は①排卵と②卵子の受精能獲得時間、③精子の生存時間によってきまる。自然交配の場合これに④発情(雄許容)がプラスされる。

馬の場合、卵子は排卵後すぐに受精能を獲得し、時間がたつにつれて低下する。精子の生存時間は個体差や状態差が大きいが概ね48-72時間といわれている。また、雄許容は排卵後も24時間持続するといわれている。

卵子の受精能の獲得や精子の授精する場所への到着に時間がかかるような動物だとそれらの時間も考慮に入れないといけなくなり難しくなるのだが、馬の場合それらは無視できるようなので単純に排卵と同時に授精・交配するのがベストとなる。

そして適期は排卵48時間前から排卵24時間後までと計算できる。

ただし凍結精液では精子の活力が低下しているうえに、排卵後の人工授精は早期胚死滅が増えるという報告もあり(卵子の老化?)、排卵12時間前から排卵までの間というごく限られた時間で、しかも明確な指標のない時間帯が適期となる。


結局はいかにして排卵日時を正確に予測し、排卵に近い時間で交配・授精できるかが関係者の腕の見せ所となる。

馬の発情は当て馬やライトニング、膣鏡検査での子宮頚管のたれ具合、直腸検査での子宮の軟化・卵巣の大きさの増加などで知ることができる。ただし、発情が始まってから平均で6日目頃に排卵するといってもぶれが大きく排卵の予測は難しい。

超音波検査をすることで、卵胞の数mm単位での大きさや卵胞が排卵窩に向かって円錐形に変形する様子、子宮の浮腫グレードがわずかに下がる様子が分かり排卵の予測をより的確なものにできるのだが、確立された指標はない。

そこで一回の交配・授精で孕ませたいときには排卵促進剤をつかうことになる。
子宮の浮腫が表れている馬であれば、交配の6~24時間前にhCGを注射することで投与後48時間以内に93%もの馬が排卵すると日本のサラブレッドで報告されており、hCGの投与は非常に有用と言われている。

参考文献
・蔵書4
・JRA育成牧場管理指針生産編第2版


2018年2月24日土曜日

馬の性周期におけるホルモン支配

馬の性周期における血中ホルモン濃度の変化

本格的な馬の繁殖シーズンが到来する前に基本的なところをおさらいしたい。

馬は日が長くなってきたことを視覚で感じることによって繁殖機能が活性化される。これを長日性の季節繁殖動物という。具体的には日本では3月ごろから性周期が回り始める。
この性質を利用してライトで照らすことで人為的に春を作ることもできる。冬至ごろから1日が14.5時間の明期と9.5時間の暗期となるように馬房にライトをつけることによって、通常よりも1か月半ほど早く初回排卵をおこさせる方法(ライトコントロール)がサラブレッドでは普及している。

発情と排卵の仕組みを噛みくだいて記すと(本当はもっと複雑で神秘的)
まず脳下垂体から分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)によって卵巣で卵胞が発育する。
卵胞からはE(エストロジェン:卵胞ホルモン)が分泌される。このEが女性ホルモンであり、発情状態を作る。
さらにEは下垂体からのもう一つのホルモンであるLH(黄体形成ホルモン)の分泌を促す。
LHは卵胞を発育+排卵させる作用がある。排卵した卵胞は黄体となる。
黄体はP(プロジェステロン:黄体ホルモン)を分泌し発情関連のホルモンを抑制、非発情状態をつくり妊娠の準備をする。
妊娠した場合はそのまま黄体期がつづくが、妊娠しなかった場合は徐々に黄体が退行し、再びFSHの分泌が始まる。

この★に挟まれた部分は概ね他の哺乳類と同じである。
そして1周期が21日なのは牛と同じ。

では何が違うかというと、発情期が1週間と長いことと、LHの上昇が排卵前の一過性のもの(LHサージ)ではなく排卵前後1週間に渡って上昇がみられるということ。

馬の特徴である1週間に及ぶ長い発情と発情終了の24時間前におこる排卵は、このホルモン支配が惹き起こしている。

この"1週間続く発情の終了24時間前に起こる排卵"というのが、馬生産現場の人々の頭を6000年間悩ませ続けている。
というのも後述する精子の生存期間と卵子の受精可能時間との関係と相まって、交配適期もしくは授精適期の判断が他の家畜と比べて格段に難しい。

交配・授精適期については次回

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