牛においては改めて市民権を得つつあるお灸。
というのも、ドップラー機能のついた超音波診断装置の普及に伴い、東洋(獣)医学と西洋(獣)医学の間の壁が崩れつつある。
ドップラー機能とは超音波を出すプローブを当てるだけで体の中の液体が流れる量や方向がわかるというもの。家畜においては始めは心臓の奇形くらいしか使い道がないかと思っていたが、ここのところ抹消の血流量の測定で注目されている。
要するに、いままで何となく感覚的に効きそうぐらいな根拠しかなかった「お灸」が、西洋医学的にも卵巣や子宮動脈の血流量の増加という形で効果が立証されるようになってきた。(※注 西洋医学とは違った形になるが、東洋医学にも理論や根拠はある)
中医学・中獣医学は実は欧米でもかなり認められていて、Traditional Chinese Medicine(TCM)という分野があり、大学で鍼灸や漢方の授業も行われている。批判ももちろんあるが、全くの出鱈目だというよりは玉石混交だから気をつけろというニュアンスが多いように思う。
お灸を据える「ツボ」は中医学でいうところの経穴(気血栄衛の通り道)なわけだが、これも筋膜の歪みや神経の集中する地点として説明できるとするトリガーポイント理論などで西洋医学と融合しつつあるとかないとか。
詳しくは以下を参照
参考文献
三浦亮太朗, et al."お灸がウシの黄体血流および血中プロジェステロン濃度に与える影響." 日本受精卵移植関連合同研究会 京都大会 2017年9月20日
ま、効く効かないは東洋医学に限らず西洋医学でも車のチューンナップでもなんでも自己責任で判断を。
さて、前置きが長くなったが、今回言いたいことは簡潔だ。
お灸をしたら不妊症で繁殖をあきらめられそうになっていた一頭の馬が妊娠した。
お灸をした「から」孕んだのかどうかは置いておいて、事実として興味深い。
使ったツボは百会、陽関、腰膁、雁翅。この年最初の種付けの不受胎が分かった時から排卵するまでに3回施灸した。
以下 中国獣医針灸療法 馬針編(岩手文永堂 1976) より
また、手技図解 家畜外科診療(養賢堂 1963)には
雁翅:左右の腸骨外角を結ぶ線で背正中線より1/3側方の部にある。不妊症への通電療法。
陽関:第4・5腰椎棘突起間にある。すなわち百会穴前方約9.0cmにあたる。腰股部リウマチ。
とある
黄体だけでなく卵胞周囲にも血流があり、排卵や妊娠に少なからず影響を及ぼしていると思われる。詳しくは"卵胞オタク"と言われているOJ Ginther先生の論文を読んで勉強中。
ドップラーのついてるポータブルエコーがもうちょっと安くなれば自分でも調べるんだけどなあ。
参考文献
宮本明夫, and 大谷昌之. "カラードップラー超音波画像診断装置を用いたウシ卵胞の発育, 閉鎖過程の血流像の動態." (2003).
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