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2018年1月12日金曜日

サラブレッドの皮下気腫

サラブレッドが外傷後に皮下気腫を発症した。

外傷自体は反対側の蹄が当たったもので管内側の幅2cmでごく浅い傷であったが、受傷から6時間後には指で押すとプチプチプチっという何とも嫌な音と感触(捻髪音・握雪感)が肢の広範で認められた。
これがその時のX線写真









管から飛節よりもさらに近位に向かって皮下(長趾伸筋・浅趾屈腱・深趾屈腱のまわり)に黒い空気のスジが写っている。
腫脹はあったが、熱感や疼痛はなかった。
マイシリンの高用量投与で様子を見ていたところ翌日には治癒していた。

論文検索では馬でのそのような症状の報告は見つからなかったが、競走馬も乗用馬もたくさん診ている馬の獣医さんに伺ったところ、「サラブレッドではわりとあるあるだよ」「フレグモーネ(蜂窩織炎)と言われてる症例のなかには皮下気腫も混ざってるんじゃないかな」とのことだった。

というわけで、このような症例に出会った話を募集したい。肢が腫れて、指で押すとプチプチ・ブチブチもしくはふわふわの雪を握ったときのようなシャリシャリっという感触だったことがある人はぜひ一報をいれてほしい。

そうというのも、この皮下気腫はガス壊疽でしばしば見られる症状として認識されている。
ガス壊疽とは嫌気性細菌(クロストリジウム属菌など)により発症する死亡率の高い疾病で、筋肉の壊死、ガス産生による触診での握雪感を特徴とする。治療は早急な切開洗浄と抗生物質大量投与、高圧酸素療法である[1]。
つまり、ガス壊疽の可能性がある場合には、緊急手術が必要であるが、ガス壊疽なのか非感染性の皮下気腫で放置しても翌日には自然治癒するものなのかしっかり見極めなければ、結果的に必要のない手術をしてしまうことになる。

実際、外傷後の皮下気腫で緊急で切開洗浄したが、ガス壊疽ではなかったという報告がヒトで散見される[2-4]。
また、これらの報告によると、ガス壊疽以外の皮下気腫の原因としては、創部への圧縮気体の注入、金属片と組織液との化学反応によるガス発生、筋活動による周囲空気の流入[2, 3]や過酸化水素水の組織間侵入[4]がある。
今回の症例は圧縮空気の注入は考えられないが、蹄鉄に使われているアルミニウムが創内に入りガスを発生させた可能性、消毒にスプレーした過酸化水素水による可能性や小さな創がcheck valveの作用を果たし創内に流入した空気が筋活動によって広範に散布された可能性が考えられる。



参考文献
[1] 清水宏. あたらしい皮膚科学. 中山書店, 2005.
  ガス壊疽http://www.derm-hokudai.jp/textbook/pdf/24-04.pdf
[2] 和田政浩, et al. 外傷後皮下気腫をきたしガス壊そを疑わせた一症例. 整形外科と災害外科, 1991, 39.4: 1588-1591.
[3] Filler, Robert M., N. Thorne Griscom, and Arthur Pappas. "Post-traumatic crepitation falsely suggesting gas gangrene." New England Journal of Medicine 278.14 (1968): 758-761.
[4] 清家卓也; 長江浩朗; 大和良輔. 過酸化水素水による皮下気腫の 1 例. 創傷, 2016, 7.1: 52-54.


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